大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)2109号 判決

被告人 松信幹男 外一名

〔抄 録〕

所論は、本件ポスターは、原判示参議院議員選挙に立候補の意思を表明した下條康麿の推せんを決定した全国各種学校総連合会(以下全各総連と略称する)理事会の決議に基いて、全各総連会員に、右推せん決議の趣旨を周知徹底させるために作成、配布されたもので、本件文書は、推せん団体が推せん活動をするための文書であつて、選挙運動のためのものではない。元来、政治団体は、選挙候補者の推せん活動をすることが許されているのであるから、推せんの実をあげるために所属会員に候補者を周知徹底させるための文書活動をすることが許されないはずはない。従つて、原判決が本件ポスターを選挙運動のための文書に該るとして、その配布を立候補届出前の選挙運動に問擬したことは、事実を誤認したか又は法令の適用を誤つた違法がある。という。

然し、政治団体その他の団体が選挙候補者の推せん活動をすることが許されているからといつて、その推せんのための活動であれば、どのような文書運動をしても、構わないというわけのものでは決つしてない。その推せんのための行為が、特定の選挙における特定の候補者又は立候補しようとする者の当選を得若しくは得しめるため投票を得又は得しめる目的を以つてする運動と認められる場合には、それは公職選挙法にいわゆる選挙運動に該るものであり、従つて、その運動のためにする文書の配付の如きも同法の規制を受けることになるのは当然である。そして、当該の文書活動が、政治団体その他の団体のする選挙候補者の単なる推せん活動に過ぎないものか、それとも、その枠を越え選挙運動に該るものとすべきかについては、その限界を劃することの困難な場合もあろうが、前者の活動をしたに止まるといい得るためには、その文書活動が、政治団体その他の団体の内部行為として、当該団体が選挙候補者としてある者の推せんを決定した事実を下部組織若しくは所属団体員に告知するためのものである場合に限られるものというべく、その告知の方法も当該団体が決議、指令等を通知するために用いている通例の方法によることを必要とするものと解すべきである。論旨はこの点について、公職選挙法二〇一条の六の規定を援用して、政治団体がするポスターの配布は参議院議員選挙の公示の日の前日までは自由にこれをなし得るわけであるから、政治団体が選挙候補者を推せんするため右選挙の公示の日の前日までポスターを配布する行為は適法であるというが、その議論は誤つている。蓋し、右二〇一条の六の規定は、政党その他の政治団体の行う政治活動についての規制を定めたものであつて、同条所定のポスターの掲示及びビラの頒布が特定の場合政治活動とみられるか、選挙運動とみられるかは、同条の関知するところではなく、それが選挙運動としてなされたものとみられる場合については、同法のその他の規定による規制を免れないものであることは当然である。ところで、原判決引用の証拠によれば、全各総連が、昭和三六年八月二九日開催の理事会において、昭和三七年七月一日施行の参議院議員選挙に、全各総連会長下條康麿を全国区候補者として推せんする旨の決議をしたことは所論のとおりであるが、被告人らは、被告人佐藤の意見に基いて、下條を右選挙に当選させるため高点の得票を獲得するための選挙運動方針について協議し、その対策として一方、全各総連の機関紙である専修教育新聞昭和三七年二月一五日号に、全各総連においては右選挙に下條康麿を候補者として推せん、高点当選を期すべきことを決議した旨の記事を載せ、これを所属会員に配布すると共に、他方、これ又被告人佐藤の発案のもとに、室内用ポスターとして原判示「参議院議員候補者下條康麿先生ご当選を祈ります全国各種学校総連合会」と記載したポスターを印刷して全各総連各支部を通じて傘下各学校に流し、教職員、生徒にこれを配布することを取りきめ、かくして右ポスター(縦約二六糎、横一〇糎のもの)八万枚を被告人松信において印刷したうえ、被告人ら共謀のうえ、そのうち二三、一四〇枚を原判示の方法により原判示の全各総連支部長に対し、配布したことが明認できるのである。そして、右の事実関係によれば、本件ポスターを配布することが所論の如く昭和三七年三月二九日の全各総連の理事会における決議を経たものであると否とに拘らず、被告人らは、原判示選挙に際し候補者たるべき下條康麿の当選を得しめその高点得票を獲得する目的で原判示ポスターを印刷配布したものである以上、それは選挙運動のための文書であることは明らかなものというべく、そしてこのことは本件ポスターの内容自体からも推認できることは原判決の指摘するとおりである。加えて、原判示の如きポスターを原判示の方法で配布するが如き行為が、推せん団体である全各総連(実は、同連合会が政治団体としての届出をしたのは、本件ポスター配布後の昭和三七年四月二〇日であることは記録上明らかである)がする単なる推せん活動乃至全各総連内部において下條康麿を原判示選挙の候補者として推せんした旨を所属各員に告知するための文書活動であつたと認めることのできないことは、既に説明したところから容易に理解できるところである。原判決も本件ポスターがその形式、内容からみて、そのことだけで、直ちに、選挙運動のための文書であると判断しているのではなく、右文書の内容、形式、配布の方法等から見て、そのように判断しているものであることは原判決自体詳細に説示しているとおりである。そして、被告人らが本件ポスターをいわゆる室内用ポスターとして全各総連傘下の学校内に掲示するものとして配布したとしても、それが選挙運動としての文書の配布に該ることは同じである。すなわち、この場合は、所論の個人がポスターを自室に掲示する場合とは全然趣を異にし、当該掲示された学校の生徒等をも対象として、掲示されたポスターは広くその閲覧に供される状態に置かれるものであつて、ポスターをポスターとして、その本来の用法に従つて用いているからである。ことに、被告人らが当初本件ポスターの印刷のことを協議した際には、これを全各総連傘下の学校の全生徒に配布することを考え、その数に見合う枚数を印刷しようとの話のあつたことも原判決に説示するとおりであつて(そして、教育に従事する者がその地位を利用して学生、生徒に対する選挙運動をするが如きことの許されないことは勿論である)、この点からみても本件ポスターが所論の如く単に全各総連内部の推せん決定の通知方法などを以つて論じ得ないものであつたことは、原判決のまさに指摘するとおりである。なお、本件文書の配布が原判示選挙の三月以上も前の行為であつたとしても、そのことの故に本件が選挙運動には該らないとすることを得ないことも当然である。原判決が本件文書の配布を選挙運動と認めたことについて、記録上誤認を疑うべきかどの認められないのは勿論、所論の如く法令違反のかしも存しない。論旨は理由がない。

(三宅 井波 谷口正)

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